年末の雪も融けて、境港は気持ちのよい晴天が続く三が日です。 皆様はいかがお過ごしでしょうか? 今年も家づくり、快適な空間づくりとその過程を充実させるために必要と思われる、 ・内向きに閉じない ・透明性のある ・公正な 情報発信となるよう、本ブログを綴ってゆきます。 引き続きご愛顧のほど、宜しくお願い申し上げます。 渡辺浩二 |
「2010年代の、コストから逆算したプランニング」 と題して書きます。今日は総論です。
家づくりにおけるさまざまな創意工夫やアイディアはすべて、少しでも気持ちのよい、快適で安全な、安らげる空間をつくりあげるためのものです。 が、それらが実現するための大前提は「予算内に収まっていること」。 敢えて、直球ど真ん中に言い切ってしまえば、家づくりにおいての検討事柄とは、 1:どのような家が 2:いくらでできるのか 突き詰めると、このふたつしかありません。
「どんな家が」を予算内の「いくら」に収めることが、私たち建築士の重要な職能であるはずなのですが、その計画ごとに「世界初の試み」を必ず持ち合わせ、また、後に触れますが、プランの多様化に伴い、いわゆる坪単価などの従来のやりかただけでは、「その計画のコスト」を正確にはかることはむずかしく、これまでの修行時代での経験をふりかえっても、方法論が確立されている場面に出会うことは、残念ながらありませんでした。 ですが、独立後、これまでできなかった「逆からのアプローチ」での経験を積み重ねることで、細部の違いを金額に反映して読み込めるノウハウの(ようなもの)の道筋が見えて、おかげ様で身についているようです。 そこで今回はそのノウハウの背景、「どんな家が」と「いくら」のふたつが決まってゆく仕組みを知ってもらい、そこから遡ったプランニングを可能にするためには何が必要なのかをご紹介します。 以下の6つの項目に分けて話を進めてゆきます。 1:2014年における坪単価の効能と限界 2:家ができてゆく、そのシステム(「材料と人」編 ) 3: 〃 (「お金と人」編 ) 4:建設業界の商習慣の歴史と現状 5:家づくりのあたらしい動き 6:コストから逆算したプランニング それでは、次回より本格スタートです。 |
坪単価とは、
=ある建物の建設費÷その建物の延べ床(=1階2階など全ての床)面積です。 例えば、 建設費が2000万円、延床面積40坪(*3.3=132㎡)で完成した住宅の坪単価は、 2000万円÷40坪=50万円/坪、坪単価は@50万円/坪です。 この流れを逆から辿れば、 @50万円(坪単価)*40坪(延床面積)=2000万円 のように、建設費を推定することもできます。 1:敷地条件 2:建物形状 3:規模 4:仕様 この4つが全く同じであれば、上記の式、 @50万円/坪*40坪=2000万円 は、新たな計画の予算としても、そのままで成り立ちます(同じ建物ですから)。 また、まったく同じではなくても多少の違いであれば、その実績はその後の有効な目安となります。そうした事例があればあるほど、あたらしい計画案を立ち上げる際の参考資料の範囲は広がるわけで、より正確な予算組みを可能にします。
繰り返しになりますが、坪単価が決まる要素、完成した住宅の価格を決定する要素とは、
1:敷地条件 2:建物形状 3:規模 4:仕様 の4つです(設計・施工者、体制の違いによる差については後述します)。 逆に言えば、この4つが定まっていなければ、その建物の坪単価が@45万円/坪なのか、@75万円/坪なのか、算出することも、それを基に目安とすることもできません。 昔々、駆け出しの現場監督時代に担当した木造住宅の工事に一度だけ、 「延べ床面積*坪単価=請負金額」 にて請負契約締結されていた現場を経験しました。 当時、そのことに特に違和感も抱かないまま、現場はつつがなく進んでいったのですが、 結局それが最初で最後の経験だったように、どうやらこのあたりで潮目が変わったようです。 ちょうどその頃を境にして、構造や断熱性能など住宅の内容への関心が高まり、性能表示制度の制定、建築基準法の大改正、住宅政策5カ年計画に代わる住生活基本法の施行に見られるように、一般の方々の家づくりに対する関心や、国の住宅政策の方向性があきらかに変わったのだと今ならば振り返ることができます。 あれから二十年弱が経った現在、坪単価は、いまでも建物予算とボリュームを初期段階に大掴みするために大変重宝する指標のひとつです。おそらくそれはこの先も変わらないでしょう。 けれども、重宝するのは初期段階までです。 なぜならば、ひとことでいえばコストダウンを計れないからです。 その理由を詳しく述べる前に、ちょっとだけ回り道をします。 次回、住宅が現実のかたちを成してゆく過程で、誰がどのように関わっているのか、その仕組みを整理します。 |
建物予算とボリュームを初期段階に大掴みするためには、2014年の今でも、まずは坪単価から割り出します。けれど重宝するのは初期段階までで、理由はコストダウンに結びつかないからです。
その理由を説明する前にちょっと寄り道して、実際に家(建築物)がどのようにつくられてゆくのかを見てみましょう、というのが前回のお話でした。 で、そこからいきなり脱線して恐縮ですが、構造計画の話をします。 建物構造の安全を確かめる手順は、 ①その建物に加わる力の大きさと向きを想定する ②それらの力が、建物のどの部分にどれだけ加わるのかを解析する ③その力に対して、各部材が安全であることを確認する、または安全な部材を選ぶ と、3段階に分けることができます。
柱や梁などに流れる力の強さをその部材ごと、ひとつひとつを解析して、それぞれに適切な強度を選んでやることは、構造計画の最も重要な「肝」の部分であり、費用対効果においても最も堅実なやりかたです。どんなに高性能のダンパーでも、必要なところに設置されなければ却って危険です。
同じように、その建物ができる仕組みのなか、現場においての人と資材の動きから、建物各部分のコスト量を計ることは、コストから逆算したプランニングの一合目で、コストダウンへの最も堅実なやりかたです。 前置きが長くなりましたが、そのような動機に基づき、現場にて家が、誰がどのように関わることで物理的にそのカタチを成してゆくのか、そのシステムについて書いてゆきます。なんだかヤヤコシそうですが、本質はいたってシンプルです。 |
現場において、家がどのような仕組みで出来上がってゆくのか、説明します。
住宅(建築工事)は、分業制でつくられてゆきます。 それがどのような「業」に「分かれているのか」、それぞれのパートについてご紹介します。
まずはパート1、専門工事業者、「職方、職人さん」とも呼ばれます。
基礎工事、大工工事、左官工事などそれぞれの専門分野に分かれて、実際の工事をおこなう方々です。オーケストラにたとえるならば、バイオリンやフルートやチェロなど、映画ならばカメラさんとか音声さんなどの、実際に音を奏でたり写したりする「実働部隊」に相当します。 一般的な住宅では、およそ25業種のこれら専門職たちが、それぞれの部署に分かれて工事をおこなう(=施工する)ことで、家は次第に現実のカタチを成してゆきます。 続いてパート2、現場管理者です。 工事期間中、タイミングによっては5~6業種の職方が同時に現場入りすることもあります。 それぞれの作業に無理が生じて品質を落とさない(設計にも言えることですが)ように、そして設計の意図を的確に実現するために、現場に陣取って工事全体をコーディネートするのが現場管理者です。オーケストラの指揮者、映画での監督にその役割が例えられることもあります。
あっけないかもしれませんが、早くもここでもう結論です。
可能なかぎりシンプルに分類すると、 ①専門工事業者、 ②現場管理者、それと ③材料 を加えた3つの要素が、現場において、物理的に家がカタチを成すために必要な全てです(設計図書が揃っていることが大前提ですが)。 楽譜、楽器、演者と指揮者が揃えば演奏が成立するように、 設計、材料、職方と現場管理者が揃うことが、建築工事成立に必要充分な条件です。 ・(設計図書に基づいて用意された)材料を ・現場管理者のコーディネートのもと、 ・各職方が加工することで 家の一部分はできあがってゆきます。 そしてその作業を繰り返すことで家は完成します。 次に、この現場で、お金(コスト)がどのように配分されてゆくのかを見てみましょう。 |